2015年4月1日水曜日

堺屋史観とは何か.堺屋太一『東大講義録 文明を解く』

 講義をまとめた本は結構好きだ.話が固くならずテンポが良くて読みやすい.本書も2002年の4月から7月にかけて東京大学先端科学技術センターで堺屋太一が講じた「知価社会論」を講義録だ.時期的には著者が経済企画庁長官を辞任した直後で,この時一年任期で東大の客員教授となっていた.

 この本は文明の移り変わりと,氏が提唱する「地価革命」について説明している.扱っている事柄の範囲は広いが二冊の文庫本にコンパクトにまとまっている.そして結構おもしろい.
 
 
堺屋太一 『東大講義録 文明を解く』

 「堺屋史観」という言葉は,この本の売り文句であったと思う.あとで考えると本の内容を的確に掴んだ言葉だ.

 堺屋太一という人は小さい頃から知っていた.家の本棚には「峠の群像」という本がおいてあったし.大ヒットした大河ドラマの『秀吉』の原作者としてオープニングに毎回名前が出てきたのを見ている.顔をしっかり覚えたのは小渕内閣で閣僚になったときだった.

 この本の冒頭の自己紹介を読んでいて気付くのは自慢が多いことだ.水平分業論を唱えたとか博覧会を開いたとか大河ドラマが高視聴率は気持ちのいい自慢だが,著者が閣僚の時に大胆な経済政策をとって景気が上向き税収が増えたというのは,ちょっと怪しい.

 著者が提唱者の「ニューパラダイム学派」というのも話を盛っているように聞こえる.この学派の説にケチをつけるわけではないし,そういった潮流があることは事実だろう.しかし.ニューパラダイム学派はというのは名前が売れている研究ではないに違いない.

 堺屋が著した『知価革命(The Knowledge-Value Revolution)』の賛同者とされるB.J.パイン・ジュニア(B. Joseph Pine II)やジェームス・ギルモア(James H. Gilmore)の主著『経験経済(The Experience Economy)』は,アメリカのアマゾンで検索したら,レビューは多いとはいえない.因みにAmazon.comのレビュー数は日本のとは桁が違い,100件あったとしてもベストセラーなら少ない方だ.もう一人の賛同者ジョージ・ギルダー(George Gilder)は,情報通信分野で名前が売れている.テレビが消えることを予測やギルダーの法則(Gilder's law)が有名だ.そして,著者は『第三の波(The Third Wave)』のアルビン・トフラー(Alvin Toffler)を学派に加えてもいいでしょうと著者が述べている.こういう言い方をされると思うのは,この学派は著者が頭の中でメンバーを決めた枠組みではないかということだ.

 1巻の,文明の移り変わりについて読み進めると,こんなにはっきりと言い切っていいのかかと疑問を感じるところが出てくる.著者も学生に反論を求めているので,異論があることを認めているようだ.これは,堺屋太一が研究者ではなくて作家であることが関係しているのではないか.厳格な研究者なら明らかでないことはわからないと言いそういった部分は曖昧にしてしまわなければ話が進まない.しかし,作家は司馬遼太郎が「司馬史観」と呼ばれ,まるで見てきたような文章を書いたように資料を解釈して細部の話を作ってしまう.それが面白いのだ.だからこの本も「堺屋史観」と宣伝されている.



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